太田孝宏さんの言葉

  小石原焼はもともと田舎の百姓の生活道具だった。ブームになって、しゃれたものをつくって、そこで間違う。売ろうとする仕事と職人の仕事は違う。職人の仕事は、使って喜んでもらうもの。

 私は好きでつくっているのではない。親がやっているから、そして美しいと思ったから、つくりはじめた。「美しい」の意味は、姿勢や考え、思いのことだ。つくるとき、使う人を思いながらつくる。そうしないと、この形ができない。

 生活の道具は使ってみてはじめてよさが分かる。だから、使う人の姿を頭に置いておかないとつくることができない。

 いずれ原点の時代が来るでしょう。今は裕福だから、素晴らしい手仕事や先人の歩いた道は別のところに置かれている。きれいで珍しくて安い――が今の時代。だから今の人は修行なんかしなくていいんでしょうね。

 小石原でこの仕事をする人は誰もいない。体力がいるから。私は頸椎腰椎狭窄症。むかし人間は体をいたわることなどなかった。

 息子は高校を出てこの人に入って2年くらい土をこねて、私の仕事を見て覚えた。元気のいいときにやっているから練りつけができる。焼き物の原点はこれだとやかましく言って教えた。太田熊雄窯のこだわりは無言の中で伝わっていく。

 使っているのは蹴りろくろ。電気ろくろでは絶対にできない。

 すべてが指先から生まれてくる。自分の体から生み出すのが職人。

 私が一番こだわっているのはすり鉢。小石原焼はすり鉢や甕(かめ)、湯たんぽが始まり百姓屋さんの必要とする道具づくり。

 即席の仕事をしたくない。だから観光はいや。乱雑になるから。売るための観光だから。売ろうとすると考えが違ってくる。そこが職人と売る人の違い。私は売る側を全く無視している。

 自分の体、思い、土。いつも考えながら生み出さないと。